足底腱膜炎とは
足底筋膜は、かかとから足の指の付け根まで扇状に広がる繊維の膜のことで、足のアーチ(土踏まず)を支えています。足のアーチは筋肉や靭帯、腱で形成された弓状の構造になっており、「内側縦アーチ」と「外側縦アーチ」、「横アーチ」の3つがあります。この3つのアーチがバランスを取ることで、身体を安定に保つことが可能です。
足底筋膜には主に圧迫力(足を地面についた際の衝撃、足裏にかかる体重)や牽引力(地面を蹴り出す際にかかる腱膜が引っ張られる力)がかかります。
足底腱膜炎の
セルフチェック
- ランニングやジョギングなどの走行時に足裏の痛みが生じる
- 朝起きて歩き出した際に足裏の痛みが生じる
- 歩こうとすると足の痛みが生じるが、しばらく歩いていると痛みが緩和する
- 長時間にわたって立つ・歩く動作を続けると足裏に痛みが生じる
- かかとの少し内側を指で圧迫すると、針で刺されたような痛みが生じる
上記の症状が起きている場合、足底腱膜炎の可能性があります。当院までご相談ください。
足底腱膜炎の症状
足底腱膜炎の主な症状は足裏の痛みです。痛みはかかと内側のやや前方に起こりやすいですが、親指の付け根や土踏まずに現れることもあります。また、痛みの特徴として以下が挙げられます。
- かかとの内側のやや前方を圧迫すると痛む
- 起床時、しばらく座った状態から立ち上がる際長時間にわたって立ったり歩いたりした際に痛みが起こる
- 歩き始めた際に痛みが起こるが、しばらく歩いていると痛みが治まる。なお、疲れが溜まる夕方などの時間帯になると、再度痛みが起こる。
- ランニングを開始し始めた際に痛みが起こるが、しばらく走っていると痛みが治まる。さらに走っていると再度痛みが起こる。
足底腱膜炎の原因
足底筋膜とかかとの骨が付着する箇所に、過剰な負荷がかかることで起こります。過剰な負荷がかかり続けることで、筋肉が小さな損傷(断裂)を繰り返し、炎症が起こります。
また、足底筋膜のかかとの付着部に繰り返し牽引力がかかることで、骨化が起こり、骨棘(骨のトゲ)が生じます。なお、骨棘が現れても痛みが起こらないケースもあります。
足底腱膜炎は特に、中高年に起こりやすく、他にもアスファルトなどの硬い場所で散歩やジョギング、マラソンをする方、長時間立ち仕事をする方にも見られやすいです。
足底腱膜炎になる原因としては以下が考えられます。
長時間の立ち仕事・歩行
長時間立ったり歩いたりするとかかとや足底に体重がかかり続けることで、足底筋膜に大きな負担がかかります。
オーバーユース(使い過ぎ)
事前のケアが不十分でアスファルトなどの硬い場所でマラソンを行ったり、ターンやジャンプなどの動作が多いスポーツ(テニスやバスケットボールなど)を長期間行うと、足底筋膜に大きな負担がかかります。
扁平足
足裏が平べったく足の安定性が低下してしまうと、足底筋膜に負担が大きくかかります。
肥満、体重の増加
肥満(BMIが30以上)になった場合、足底筋膜に過剰な負担がかかってしまいます。
- BMIの計算方法:体重(kg)÷身長(m)の2乗
- 適正体重:BMI値が25以下
ハイアーチ(凹足:おうそく)
土踏まずが高い場合、可動域が低いことが多いです。
その場合、足の緩衝材の機能が低下するため、足底筋膜に負担がかかりやすくなります。
脚長差
脚の長さが左右で揃っていない場合、片方の脚に負荷がかかりやすくなります。
靴の問題
靴のサイズが合っていない場合、またはハイヒールや革靴をよく履く場合、足底腱膜炎を発症しやすいです。
その他
下記も足底腱膜炎の要因となります。
- 下腿部(ふくらはぎ)の筋肉が硬い、弱い
- 正しくない歩き方をしている(バタバタ歩き、すり足歩きなど)
- 足指で細かい動きができない(足指でじゃんけんができないなど)
足底腱膜炎はかかとに痛みが起こりますが、原因は様々です。ご自身の生活習慣や体質などを把握し、原因を確かめることが重要です。
足底腱膜炎の検査・診断
問診・視診・触診
まずは問診にて、症状について詳しくお聞きします。触診では足底腱膜やかかとの骨の付着部を指で圧迫し、痛みが起こるかどうかチェックします。
超音波検査(エコー)
超音波検査で足底筋膜とかかとの骨の付着部の厚みを確認します。通常は2~4mmほどの厚みですが、足底腱膜炎を発症すると5~7mmほどの厚さになります。
また、足の指を動かすとそれに伴って足底筋膜も動きますが、足底腱膜炎を発症した場合、この連動した動きが悪くなります(滑走性が低くなるため)。足底腱膜炎以外の疾患が原因になることもあるので、しっかり鑑別を行います
レントゲン検査・MRI検査
レントゲン検査
レントゲン検査中に骨棘が発見された場合、足底腱膜炎が疑われます。なお、骨棘があったとしても、足底腱膜炎と断定はできません。
MRI検査
MRI検査は足底腱膜炎と他の疾患の鑑別に役立ちます。後脛骨筋腱機能不全症(筋・腱が分断裂する疾患)、足根管症候群(神経の圧迫・障害が起こる疾患)、足底腱膜線維腫症などを発見できます。
足底腱膜炎特有の症状が確認でき、他の疾患でないと確認した場合に足底腱膜炎と確定診断します。MRI検査が必要な場合、当院と連携している検査機関にご案内します。
足底腱膜炎の治療
足底腱膜炎の治療は痛みを緩和する治療、足裏への負担を軽減する治療を並行して実施します。
主な治療は薬物療法やインソールなどを使用する装具療法、リハビリテーション、体外衝撃波治療、PRP療法、手術などがあります。
まずは、患者様の症状に応じて手術以外の治療を試します。
また、専門医の指示により、理学療法士が痛みの軽減・運動機能の改善のためのリハビリテーションを行います。なかなか改善しない場合、体外衝撃波治療やPRP療法を検討します。手術が必要と判断された場合には当院と連携している高度医療機関にご案内します。
保存的治療
局所安静
足裏に負担がかからないように、まずは安静にすることが大切です。痛みがあまりない場合、安静にすることで自然に痛みが治まってくることもあります。
日頃スポーツをしている方は、ランニングやジャンプなどのトレーニング・運動は一旦休むか、回数を減らすようにしましょう。また、アスファルトなどの硬い場所での運動は控え、芝生や土など柔らかい場所で運動するようにしてください。
薬物療法
痛みや炎症を抑えるために、湿布や 非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)の内服薬を使用します。痛みが激しい場合はステロイド剤の注射を行うこともありますが、何度も注射するとかかとの脂肪組織の萎縮や腱膜の断裂を招く恐れがあるため、注射回数は医師が管理します。
運動療法
痛みが治まってきたタイミングで、足底腱膜やアキレス腱、ふくらはぎの筋肉のストレッチを開始し、腱や筋肉の緊張を和らげて足裏の負担を軽くしていきます。
装具療法
テーピングやインソールなどにより足のアーチを支え、足裏にかかる負担を軽減して炎症を改善させます。インソールはかかと部分が凹み、土踏まず部分が盛り上がっているものを活用します。その他、かかと部分に衝撃吸収材が使用されているインソールを使うこともあります。
PFC-FD療法
当院で行うPFC-FD療法は、患者様の腕から採取した血液を使用し、血小板に含まれる成長因子を活用するバイオセラピーです。この療法では、成長因子を患部に注入することで、抗炎症作用、鎮痛作用、創傷治癒、組織修復などの効果が期待できます。PFC-FDとは「Platelet-derived Factor Concentrate Freeze Dry」という造語の略で、セルソース株式会社が頭文字から名付けました。日本語では「血小板由来因子濃縮 凍結乾燥物」と訳されます。採取した血液の成分をフリーズドライ(FD)することで長期保存が可能になります。
PRP(Platelet-rich Plasma、多血小板血漿)は、自己血液を遠心分離して得られる血小板を多く含む液体です。一方、PFC-FD療法はこのPRPから成長因子を抽出し、凍結乾燥することでさらに効果を高める技術です。
拡散型圧力波治療
体外衝撃波治療とは、衝撃波を患部に加えて痛みを緩和する治療法です。この治療法は2種類に分けられ、1つは集束型衝撃波(FSW:Focus shock wave)装置を用いた方法、もう1つは拡散型圧力波(RPW:Radial shock wave)装置を用いた方法があります。
膝や腰の筋や腱、軟部組織の異常によって起きた肩や肘、腰、膝、足などの痛みを緩和させます。当院で採用している拡散型体外衝撃波(RPW)装置は、従来型の集束型体外衝撃波(FSW)よりも衝撃波の出力が低くなっているため、理学療法士の指導のもと行うリハビリテーションで使用できるようになりました。そのため、リハビリテーションでより高い効果を得られることが期待できます。
拡散型体外衝撃波(RPW)は、以前はアスリートの低侵襲治療として活用されていましたが、最近では医療機関に通う整形外科患者様に対しても用いられています。
手術(足底腱膜切離術・
骨棘切除術)
足底腱膜炎は保存的治療により改善することがほとんどです。また、昨今は難治性に対して体外衝撃波治療に保険が適用されるようになったため、手術を行うケースは少なくなっています。
しかし、保存的治療でも改善が見られず、日常生活に支障が出ている場合や、1日でも早く治したいと希望しているアスリートの方の場合、足底腱膜の一部を切り離す「足底腱膜切離術」を行うことがあります。足底腱膜切離術では、痛みの原因となっている足底腱膜の踵骨結節付着部(足底腱膜全体の1/3~1/2程度)を切り離します。なお、当院では行っていないため、必要と判断した場合は連携している高度医療機関にご案内します。
また、骨棘ができて痛みが生じている場合、骨棘切除術を行うこともあります。
昨今は、超音波や内視鏡を用いて患部を確認しながら手術を進めることで、以前よりも手術後の痛みを軽減でき、入院期間が短く、社会復帰までの期間も短くなりました。
※手術の効果は個人差があります。
足底腱膜炎の予防
予防には、足首やふくらはぎ、足の筋力・柔軟性を高めることが重要です。下記のことを意識して日常生活を送りましょう。
- 足底腱膜炎やアキレス腱、ふくらはぎの筋肉の緊張を和らげるためにストレッチを行いましょう。
- 運動の前後やお風呂上りは、腱や筋肉のストレッチを行って足裏の負担を軽減させましょう。ストレッチは1日に何度も行う必要はなく、毎日続けることが重要です。
- お風呂にゆっくり入って血行を促し、腱膜や足の筋肉を柔らかくしましょう。
- 運動前は準備運動をしっかり行い、練習後はアイシングやストレッチなどのクールダウンを必ず行いましょう。
- 肥満の方は適正体重を目指してダイエットに取り組みましょう。
- サイズに合った靴や土踏まずに衝撃吸収材が使用されている靴を選びましょう(夕方になると足が浮腫むため、靴は夕方に買うようにしましょう)。
- 青竹踏み、土踏まずでゴルフボールやテニスボールを転がす運動はリラクゼーション効果もあります。
セルフストレッチ
足底腱膜 足裏伸ばし
- 座ってかかとを床につけた状態で、手で足の指を持ち、身体にゆっくり引き寄せてください。
- 足の裏を伸ばし、その状態を20~30秒維持してください。
この運動を左右3セットずつ、1日3回行いましょう。
アキレス腱伸ばし
- 大きく足を開いて、痛みが起きている足を後ろに向けましょう。かかとは両足とも床にしっかりつけてください。
- 前方の足の膝にゆっくり重心をかけながら曲げていってください。
- 後方の足のアキレス腱が少し突っ張るくらいまで伸ばし、この状態を10秒維持してください。
この運動を左右3セットずつ、1日3回行いましょう。
※これらのストレッチはお風呂上りや運動前後に行うと効果が高まります。